ノーマルエンド後ifその後
受け入れさせられた尻の穴が、無残に裂けたのがわかる。
慈悲などかけらもない、獣そのものの腰使いだった。
ライフラインが断たれたせいで役目を果たしていない電灯が視界に映る。覆いかぶさるトトの体からは饐えた臭いがした。
傷が癒えてすぐ、取るものも取りあえず俺を探しに来たのだろう。黒いコートは垢じみて、見る影もないほどくたびれていた。薄汚れた金髪は長い間櫛を入れた形跡がない。
なんてこった、と頭の中だけでつぶやく。身だしなみには気を使っていたお前が。めかしこんだ夜の女たちよりもなお、磨き抜かれた肌をしていたお前が。今ではこんなにも薄汚れて。
「ぐ……ッ」
感傷的な気分を引き戻したのは、無粋な現実だった。
血と小便と精液に、ろくに風呂に入っていない男二人分の体臭。吐きそうなほどひどい臭いだ。それに激痛が合わさり、いよいよ頭がくらくらしてくる。
小便が染み込んだカーゴパンツが肌にまとわりついて気持ち悪い。
いきり立った一物を慣らしもせずにぶち込まれ、あまりの激痛に失禁した俺のざまを、トトは笑いも嘲りもしなかった。ただただ、逃がさんとばかりに腕を押さえつけ、荒い息をつきながら俺を蹂躙することに没頭している。強く輝いていた青い瞳は、ただれた欲望と裏腹な安堵でどろりと濁っていた。
俺を謀り良き友人の顔をしていたころの比ではない。かつての相棒は、今や完全に常軌を逸していた。かさついてひび割れた唇からは、得意の冗談も、鋭く刺すような皮肉も出てこない。
シルカ、と舌足らずに俺を呼ぶ奇妙に幼い声にぞくりとした。
本当に死にたかったのなら、自分の頭をズドンとやればいい。
本当に逃げたかったのなら、トトの喉首を掻き切ってやればいい。
結局俺は、どちらも選ばなかった。そして今――再び現れたトトの姿におののいているのだ。滑稽なことに。
振り下ろした刃に手心を加え、トトならばいずれ辿り着くだろう場所に戻る。こうなることは火を見るよりも明らかだろうに、俺はなぜここに来た。
「……は」
大きく開けた口から息が漏れる。入れ替わりに吸いこんだ埃っぽい空気に思わず咳き込むと、口元が自然に笑いの形になった。
単純な話だ。
俺はトトに追いかけてきてほしかった。トトの俺に対する執着が、並大抵のものではないと知りたかった。
「トト」
トトの背中を掻き抱き、金髪に包まれた耳たぶをついばむ。
無様で無残で滑稽で、なんてかわいそうで愛おしい、俺だけの相棒。
隣に並ぶための方法は、相手のところまで駆け上ることだけとは限らない。相手を自分のところまで引きずり下ろす方法もあるのだと気づいたとき、俺はどうしても試さずにはいられなかった。
憐憫、蔑み、畏怖、罪悪感、優越感。愛と呼ぶのもおこがましいほど汚れた感情に俺の心は満たされる。なのにそれは紛れもなく――幸せなのだ。
俺はトトを捨てた。トトは俺に捨てさせなかった。だから。
「俺の負けだ」
今こそ認めよう。
トト、俺の完全敗北だ。